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ホーム1分子カウント(SMC®)技術マルチプレックスおよび高感度イムノアッセイによるアルツハイマー病バイオマーカーの検出

マルチプレックスおよび高感度イムノアッセイによるアルツハイマー病バイオマーカーの検出

アルツハイマー病などの複雑な神経変性疾患においては、マルチプレックスと高感度イムノアッセイを組み合わせてバイオマーカーを検出することで、研究者は疾患メカニズムを深く理解することができます。MILLIPLEX®マルチプレックスおよびSMC™高感度イムノアッセイを用いた、ヒト脳脊髄液、血漿、および血清サンプル中のアルツハイマー病バイオマーカーの検出についてご確認ください。

 

AD研究においてマルチプレックスと高感度イムノアッセイを組み合わせる理由

アルツハイマー病(AD)患者の脳脊髄液(CSF)中のタンパク質バイオマーカーのモニタリングは、疾患進行を理解する上で非常に有益です1。マルチプレックスイムノアッセイでは、複数のバイオマーカーを同時に測定でき、1回の実験で多くの信頼性の高いデータが得られます。CSFバイオマーカーは、高い再現性で健常サンプルと疾患サンプルを判別できますが、CSFは研究用に入手が困難な生体液です。

血液ベースのADバイオマーカーが必要とされ、新規バイオマーカーの探索が行われています2。しかし、血液ベースのバイオマーカーの同定は、標準的なイムノアッセイの感度により制限される可能性があります。高感度イムノアッセイ技術により、さまざまな生体液中の低濃度タンパク質の測定が可能となり、神経変性疾患の研究を大きく前進させ、新規バイオマーカー同定の可能性を開きます3,4


マルチプレックスイムノアッセイと高感度イムノアッセイの方法

1分子カウント(Single Molecule Counting、SMC™)技術によって、さまざまなサンプルタイプ中のアルツハイマー病(AD)バイオマーカーを高感度に定量できることを実証するため、市販のMILLIPLEX®神経科学キットを用いてAD患者と健常対照者のCSF、血漿、血清を評価しました。

サプライヤー(Discovery Life Sciences、BioIVTおよびPrecisionMed)を介して、AD患者と非AD対照者(健常)のヒトCSF、血漿、血清を入手しました。サンプルは、キットのプロトコルに従い、原液、または希釈して測定しました。対応のないt検定(unpaired t-test)を用いて、すべてのアナライトの両側p値(two-tail p-value)を算出しました(GraphPad Prism)。

でMILLIPLEX®マルチプレックスアッセイは、製品の取扱説明書に従い、96ウェルプレートで行いました。Luminex® 200™システムで平均蛍光強度(MFI)を測定し、MILLIPLEX® Analyst 5.1ソフトウェアでデータを解析しました。

以下のマルチプレックスアッセイを使用しました。

  • MILLIPLEX®Human Amyloid Beta and Tau Panel(カタログ番号 HNABTMAG-68K)を用いて、以下のアナライトを定量しました:Amyloid β(1-40)(Aβ40)、Amyloid β(1-42)(Aβ42)、total Tau(tTau)、およびpTau T181(1:2希釈したCSFサンプル)
  • MILLIPLEX®Human Neuroscience Panel 1(カタログ番号HNS1MAG-95K)を用いて、以下のアナライトを定量しました:α-Synuclein、Glial Fibrillary Acidic Protein(GFAP)、Neuron-Specific Enolase(NSE)、PARK5(UCHL1)、PARK7(DJ-1)、およびTransglutaminase 2(TGM2)(原液CSFサンプル)
  • MILLIPLEX®Human Neuroscience Panel 2(カタログ番号HNS2MAG-95K)を用いて、以下のアナライトを定量しました:Angiogenin(ANG)、ApoE4、FABP3、Ferritin、Neurogranin(NGRN)、およびTREM2(1:10希釈したCSF、血清、および血漿サンプル)このパネルは、CSFおよび血液(血清と血漿)サンプルの両方について検証しました。

SMCAmyloid Beta 1-40 High Sensitivity Immunoassay Kit(カタログ番号No. 03-0145-00)およびSMC™Amyloid Beta 1-42 High Sensitivity Immunoassay Kit(カタログ番号03-0146-00)を用いて、製品の取扱説明書に従い、amyloid betaペプチドを定量しました。SMC™イムノアッセイの定量には、ERENNA®およびSMCxPRO®の2つの装置が使用されました。ERENNA®およびSMCxPRO®プラットフォームのデータ収集および解析には、それぞれSgx Link™およびxPRO™ソフトウェアを使用しました。

 

マルチプレックスイムノアッセイの結果

MILLIPLEX®マルチプレックスイムノアッセイは、神経変性疾患のバイオマーカーを測定するための有用なツールです。

CSFサンプル

血清および血漿サンプル中のバイオマーカー検出を評価する前に、健常者およびAD患者のCSFサンプルを用いて、複数の既存および新しい神経変性疾患バイオマーカーを検討しました。使用した各キットの標準曲線を図1に示します。

 

神経科学研究のためのマルチプレックスイムノアッセイ。MILLIPLEX<sup>&reg;</sup>(A)Human Amyloid Beta and Tau Kit、(B)Human Neuroscience Panel 1、および(C)Human Neuroscience Panel 2の標準曲線のMFI値を示すグラフ。

図1.神経科学研究のためのマルチプレックスイムノアッセイ。MILLIPLEX®(A)Human Amyloid Beta and Tau Kit、(B)Human Neuroscience Panel 1、および(C)Human Neuroscience Panel 2の標準曲線。

AD患者と健常対照者のCSFサンプルを、マルチプレックスキットを用いて評価し、特異的なバイオマーカーの濃度差を決定しました。各キットにより、健常対照者と比較したAD患者のCSFにおける変化が明らかになりました(図2)。

健常およびADのCSFサンプルのpTau181、NSE、Neurogranin、Aβ42、およびGFAPを含むMILLIPLEX<sup>&reg;</sup>マルチプレックスバイオマーカー解析

図2.健常およびADのCSFサンプルのマルチプレックスバイオマーカー解析。

MILLIPLEX®神経科学キットを用いて、ヒトCSF中の合計16種類のタンパク質を測定しました。これらの各キットを用いて健常およびADのCSFサンプルを解析した結果、phosphorylated Tau(p=0.0009)、Aβ42(p=0.0476)、NSE(p=0.008)、GFAP(p=0.0016)、UCHL1(p=0.0088、データ非掲載)、およびNeurogranin(p=0.0359)の有意差が明らかになりました。

各キットのサンプルサイズは以下のとおりです。

  • Human Amyloid Beta and Tau Panel-健常CSF(n=14)およびAD CSF(n=16)
  • Human Neuroscience Panel 1-健常CSF(n=15)およびAD CSF(n=8)
  • Human Neuroscience Panel 2-健常CSF(n=7)およびAD CSF(n=7)

Human Amyloid Beta and Tau Panelでは、ADのCSFにおいてAβ42が減少し、 phospho-Tau(Thr181)が増加しており、これらの標準的ADバイオマーカーの確立された観察結果と一致していました5。Human Neuroscience Panel 1では、ADのCSFにおいてNSEおよびGFAPがともに増加していました。Human Neuroscience Panel 2では、ADのCSFにおいてneurogranin NRGNが対照群と比較して高い値を示しました。

 

血清/血漿サンプル

Human Neuroscience Panel 2では、血清および血漿サンプルについても検証されているため、次に循環血液中においてタンパク質発現が異なっているアナライトがあるかどうかを検討しました。FABP3はAD患者の血漿および血清で増加していました。一方、TREM2はADの血清で増加、NRGNはAD血漿で増加していました(図3)。

 

健常およびADの血漿および血清サンプルのTREM2、FABP3、およびneurograninを含むMILLIPLEX<sup>&reg;</sup>マルチプレックスバイオマーカー測定

図3.健常対照者およびAD患者の血漿および血清サンプル中のマルチプレックスADバイオマーカー測定

MILLIPLEX®Human Neuroscience Panel 2を用いて、AD患者の血漿(n=5)および血清(n=6)と、健常対照者の血漿(n=12)および血清(n=8)の疾患関連タンパク質を測定しました。Human Neuroscience Panel 2を用いた血清および血漿の解析で、健常対照と比較してADサンプルでは、TREM2(血清p=0.0083)、FABP3(血清p=0.0204、血漿p=0.002)、および neurogranin(血漿p=0.0044)の増加が明らかになりました。

高感度イムノアッセイの結果

複数のアナライトがADの血液ベースのバイオマーカーとなる可能性が示されましたが、他のタンパク質は低濃度であるため、SMC技術を用いた高感度プラットフォームにおけるアッセイの開発が必要となりました。SMC技術により、ヒト血漿サンプル中のamyloid betaペプチドの測定が可能になりました(図4)。血漿Aβ40(p=0.028)のわずかな増加がADと関連していました。血漿Aβ42の値に差は認められませんでした。重要なことは、SMC Aβ42キットで、ADの特徴であるCSF Aβ42(p=0.0116)の減少を検出できたことです。またCSF(p=0.0055)中のAβ40にも有意差が認められました。SMCxPRO®システムの後、ERENNA®システムで連続して測定を行うことで、Aβ40およびAβ42キットに関して、SMCプラットフォーム間の優れた相関性が示されました。

Aβ42およびAβ40に関する、健常およびADの血漿・血清サンプルとCSFサンプルのSMC<sup>&trade;</sup>高感度イムノアッセイバイオマーカー測定の相関

図4.健常およびADの血漿・血清サンプルとCSFサンプルの高感度イムノアッセイバイオマーカー測定の相関

AD患者と健常対照者のCSFおよび血漿中のAβ40とAβ42を、それぞれの高感度SMCイムノアッセイを用いて測定しました。AD患者と健常対照者間において、Aβ40の有意差が血漿(p=0.028)およびCSF(p=0.0055)において認められました。ADのCSF(p=0.0116)ではAβ42の減少が認められましたが、血漿(p=0.9733)では変化が認められませんでした。SMCxPRO®システムでCSFを測定したものと同一のプレートを、その後ERENNA®システムで解析しました。図4に示すとおり、2つのプラットフォーム間に高い相関性が認められました。


各キットのサンプルサイズは以下のとおりです。

  • SMC Amyloid Beta 1-40 High Sensitivity Immunoassay Kit、健常CSF(n=20)、AD CSF(n=10)、健常血漿(n=10)、AD血漿(n=10)
  • SMC Amyloid Beta 1-42 High Sensitivity Immunoassay Kit、健常CSF(n=8)およびAD CSF(n=8)、健常血漿(n=10),およびAD血漿(n=10)

まとめ

MILLIPLEX®およびSMCイムノアッセイを用いて、CSF、血漿、および血清サンプル中の神経変性疾患に関連した多数のタンパク質を測定しました。Aβ42およびphospho-Tauなどの確立されたADバイオマーカーについては、CSFにおいて予想通りの変化パターンが認められました。また、NeurograninおよびGFAPなどのタンパク質は、AD CSF中の濃度が増加していました。血漿および血清サンプルにおいて血液ベースのADバイオマーカー候補を解析したところ、いくつかの有望な候補が見つかりました。今後の研究では、大規模なサンプルコホートを用いてこれらの観察結果が確認できるかどうかを評価する必要があります。

fit-for-purposeのアプローチを採用し、複数の技術プラットフォームとイムノアッセイを組み合わせて、CSF、血漿、および血清サンプル中のADバイオマーカーを解析しました。これらのMILLIPLEX®およびSMCイムノアッセイにより、さまざまな生体液中の幅広い神経変性疾患バイオマーカーを検討するための信頼のおけるリソースを提供します。

 

関連製品

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研究目的での使用に限定されます。診断目的では使用しないでください。

関連ウェビナー

以下のウェビナーで、本研究のプレゼンテーションをご覧ください。

Multiplex immunoassay detection of Alzheimer’s disease biomarkers in cerebrospinal fluid, plasma, and serum

参考文献

1.
Lleó A, Cavedo E, Parnetti L, Vanderstichele H, Herukka SK, Andreasen N, Ghidoni R, Lewczuk P, Jeromin A, Winblad B, et al. 2015. Cerebrospinal fluid biomarkers in trials for Alzheimer and Parkinson diseases. Nat Rev Neurol. 11(1):41-55. https://doi.org/10.1038/nrneurol.2014.232
2.
Hye A, Riddoch?Contreras J, Baird AL, Ashton NJ, Bazenet C, Leung R, Westman E, Simmons A, Dobson R, Sattlecker M, et al. 2014. Plasma proteins predict conversion to dementia from prodromal disease. Alzheimer's & Dementia. 10(6):799. https://doi.org/10.1016/j.jalz.2014.05.1749
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Hwang J, Banerjee M, Venable AS, Walden Z, Jolly J, Zimmerman C, Adkisson E, Xiao Q. 2019. Quantitation of low abundant soluble biomarkers using high sensitivity Single Molecule Counting technology. Methods. 15869-76. https://doi.org/10.1016/j.ymeth.2018.10.018
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Blennow K, Zetterberg H. 2015. Understanding Biomarkers of Neurodegeneration: Ultrasensitive detection techniques pave the way for mechanistic understanding. Nat Med. 21(3):217-219. https://doi.org/10.1038/nm.3810
5.
Olsson B, Lautner R, Andreasson U, Öhrfelt A, Portelius E, Bjerke M, Hölttä M, Rosén C, Olsson C, Strobel G, et al. 2016. CSF and blood biomarkers for the diagnosis of Alzheimer's disease: a systematic review and meta-analysis. The Lancet Neurology. 15(7):673-684. https://doi.org/10.1016/s1474-4422(16)00070-3
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